むかしむかし、あるところに、こんな図面がありました。
そして、その図面を元に加工した製品が2つありました。
加工したのは新人加工者くん。そして検査したのは新人検査員さん。
そんな二人のやり取りです。
検査員:製品[no.1]はOKです。でも製品[no.2]は少しだけ位置度がNGでした。
加工者:えっ…そうなんですか?セルフチェックしたときは大丈夫だと思ったんですが…
加工者:ちょっと測定値を見せてもらえますか?
検査員:どうぞ
加工者:ん?これって公差にはいってるんじゃないですか?
加工者:位置度が「0.1」だから…寸法Xも寸法Yも10±0.05に入っていたらOKですよね?
検査員:え…でも、位置度の算出式に入れたら、製品[no.2]の位置度は「0.113」になるので、NGなんです…
さて皆さんは、加工者と検査員の、どちらの言い分が正しいか分かりますでしょうか?
ここで、休憩からベテラン検査員が戻ってきました。
ベテラン検:なるほど。これは、加工者さんが位置度について勘違いして理解しているようですね。
ベテラン検:ヒントは「位置度は円で示されている」ということなんです。
ベテラン検:加工者さんがいう「寸法Xも寸法Yも10±0.05に入っていたらOK」を図面上で公差表現しようとすると、こうなります。
ベテラン検:図面の位置度の表現と、加工者さんの公差表現とで、何が異なるか、分かりますか?
加工者:…まだちょっと分かりません…
検査員:…すみません。私も…
ベテラン検:では、こうすると分かりやすいですか?次の図は、製品の左上を基準として、図面上の穴位置、各製品の穴位置をプロットしたものです。
ベテラン検:そして、図面上の穴位置を中心にφ0.1mmの円(薄緑色)があります。これは図面上の位置度「φ0.1」を表します。
ベテラン検:同様に、図面上の穴位置を中心にレンジで0.1mmの正方形(水色)があります。こちらは『加工者さんの公差表現』でいう「10±0.05」の範囲のことです。
加工者:あっ…
ベテラン検:そうです。製品[no.2]の穴位置は、「10±0.05」を表すレンジ0.1mmの正方形(水色)には入っていますが、図面上の位置度(薄緑色)「φ0.1」の中には入っていないのです。
ベテラン検:「位置度」といっても、JISの中にいくつかの定義があります。今回の場合は、次の定義に該当します。
点の位置度 点の位置度は,理論的に正確な位置にある点 (ET) を中心とし,対象としている点 (E) を通る幾何学的円又は幾何学的球の直径 (f) で表す
JISB0621:1984 幾何偏差の定義及び表示
ベテラン検:「幾何学的円」とありますね。円の範囲であって、正方形の範囲ではないのです。円の方が正方形より合否範囲が厳しいんです。
ベテラン検:詳しくは『JIS B 0621:1984』という言葉でネット検索していただくと、いいかもしれません。
検査員:位置度の算出式は、どうしてこんなにややこしいんですか?
ベテラン検:それは、こちらのブログにあるので、ぜひ読んでみてください
加工者:分かりました。製品[no.2]は作り直します。それにしても位置度って…ブツブツ…
こうして加工者さんは製品[no.2]を作り直し、無事に納品できましたとさ。めでたしめでたし…